豊永裕美のつかまえて食べる【うさぎと亀】

熱狂と酔狂 ディレクターズコラム


豊永裕美のつかまえて食べる【うさぎと亀】

食材探検家 豊永裕美さんの師匠、内田さんは生まれ育った地域に住み、小さい頃から当たり前だった狩猟採取を楽しむ北関東随一の捕食者。内田さんの畑で催された亀の食べ比べにお邪魔して、80余年の間につかまえたもの、食べたもののお話を聞いてみました。


酒井 純信

社会の檻の錠前破りにしてひとり働きの動画屋。死んだ魚の目なんて比喩がありますが目をキラキラさせ生きるおっさんも同時代にいる。その生き様を動画で綴りインターネットに流しますので、檻から抜け出す鍵を見つけてください。


食材冒険家 豊永裕美さんと師匠の内田さん

かわいくておいしい生き物たち

内田さんの畑には食料として食用のジャンボウサギや鶏たちのような生き物たちが飼われています。孫のような存在の豊永さんが仲間を連れてやってくると、締めて振る舞う。それは30〜40年前の農村では、日々当たり前に行われていた食事のあり方だったのです。
だが…ウサギがかわいい…かわいすぎる!抱っこしてしまうと、つかまえて食べる活動に関わりながらも価値観がぐらついてしまう体験でした。でも食事に小さなひき肉が入っていたら、本当は私たちの見えないところで何かの動物が締められ、皮を剥き食肉に加工されている。日々の暮らしの中で命をいくらでも食べているのに、いざぬくもりのあるウサギちゃんを抱いてしまうと、かわいさにゆらぐ心。今回はカミツキガメ・ミドリガメ・スッポンも用意されており、でっかい亀を3匹解体しなくてはいけません。彼らの甲羅は伊達じゃなく、解体するには砕いたりして甲羅を突破する必要があります。(金属用のノコギリがオススメ)

うさぎの耳は良い出汁が取れるという噂

亀は亀!

豊永さんは食材を探検するコミュニティ”亀は亀”を運営しています。前職のレストラン時代に野生食材の調達を始めた頃、仕入れ先だった内田さんに亀の味を聞いた時の答え「亀は亀!」に「そりゃそうだ!」と気付かされたのが原体験。どんな食材も消費地に赴き、旬に食べて、猟があれば参加して腹落ちする体験を大切に、亀は亀を始めました。
コミュニティでは、〇〇ってどんな味?の答えを現地で一緒に体験してもらっていて、昆虫食でいえばセミはセミの味だし、コオロギはコオロギの味。エビっぽいとか表現される事もありますが、食べないことには味はわかりません。美味しさの扉は探そうと思えば無数に選択肢があるから、一つ一つ確かめに行くのです。食べ慣れてくればいいコオロギ出汁が出てるね!みたいな会話が自然と出てきて、自分の食の引き出しに収まるものです。

鯉の追い込み漁は冬の風物詩
カミツキガメは食べるところが多いけどちょっと臭いがある

亀はどうやって食べるの?

今回豊永さんが調理する亀はというと、解体したての新鮮な状態でも匂いが気になることがあるため、ひと工夫が必要です。ネギやニンニク、生姜の効いた参鶏湯を参亀湯(音はカメゲタンと呼びたいぜ…)にすれば初心者でも亀の個性を楽しめる料理に。
一方で、豊永さんが大切にしているのは生き物の味わいを知ってもらうこと。臭みも残るけれど塩焼きでも提供して、亀ってどんな味?を知ってもらいます。

カメゲタンにした亀の肉は外側がとろりと柔らかく、でも筋肉は繊維感もあって食感は鶏肉系、味は亀系ですので気になる方はぜひ”亀は亀”の精神でトライしてください。豊永さんは野生食材をレストランに卸したりもするけど、自分で振る舞う料理はシンプル調理で手をかけすぎない、そのままの味わいで提供してくれます。さらにこの日の食卓には、イノシシやイタチも。バーベキューでシンプルに、セミはさっと素揚げにしていただきました。野生の獣はじっと肥育されてきたスーパーの肉とは全く別物、パンパンの筋肉を食べて旨味の濃さ、味の締まりを知ってしまうと、特に鶏肉などは放し飼いのものが食べたいな、と普段買う肉の選び方も違ってきます。

カメゲタン!
ミドリガメの腕

殺し屋ブンちゃん

師匠・内田さんはこうした野生食材を捕まえて食べること80年あまり。若かりし頃の話をしてくれました。
内田さんがいろんな生き物をつかまえて肉を売っていた時、野犬をつかまえて食肉として売り捌くおじさんが居ました。肉屋に犬を供給していたそのおじさん「殺し屋ブンちゃん」は、卸すくらいだからある程度安定した需要に支えられて犬を肉にしていたのでしょう。内田さんの家族は渡し船の仕事もしていたそうですが、闇米を売りにいく農家さんをよく乗せていたような時代で、イタチ、タヌキ、イノシシなどと並び、犬も食糧としての選択肢だったのです。
でかくなるか?を基準に犬種を選び、肥育して出荷するのはまさに食肉としての発想。牛は食べ慣れているけれど、犬は食べ慣れていない、かつ身近な生き物。食肉とされていたと聞くとびっくりするけれど、食糧難の時代には食べ手のある中型動物だったのです。その辺に野犬として大きな犬がうろうろしていた、というだけで現代人としては怯んでしまいますが、ブンちゃんにとってはいろんな意味で飯のタネ、売ってよし、食べてもよし、という向き合い方だったのでしょう。

手早くイタチを剥く内田さん
猪と並べてじっくり火入れ

遊びの延長に食べる事があった

昔はつかまえて食べる事が楽しいだけでなく、お金にもなりました。内田さんは大人の日雇いが1日240円の時代に渡し船で400円、1羽10円のスズメを兄弟で捕まえて300~400羽、季節によってかなりの大金を稼いでいました。楽しいからつかまえる、美味しいから食べるし、稼げるなら工夫する。その時代、その環境にいた内田さんにとって当たり前の選択を続けてきたら、獣も、魚も、野草も、いつ、どこで採れて、どう食べるのが美味しいかを全部知ってるじいちゃんになっていたのです。
その生き方を見た裕美さんも、レストランを飛び出して野山を駆け回る人生を歩きだしました。今だから新しく感じる「つかまえて食べる」行為の再発見は、おいしいものが食べたい・お腹いっぱいになりたい・手軽に食べたい、だけじゃない食の冒険への扉そのもの。まずは手頃な淡水魚や野草を食べ始めれば、あなたの野生も目覚めるかもしれません。