
松重見聞録
シャツ、大好きなんでね。
今回は静岡県浜松市へ。養鰻発祥の地でうなぎを堪能し、向かったのは田園地帯にポツリと佇む真っ白なアトリエ。そこで「遠州織物」という生地のシャツと出会った松重、その上質な手触りに隠された秘密と価値を探っていく。
CONTENTS
養鰻発祥の地、そしてものづくりの街
まずはうな重をいただきます
浜松市にやってきた松重、まずはうなぎ屋さんへ。浜松には養鰻発祥の地と言われる浜名湖があり、「新幹線を降りた瞬間からうなぎのいい香りがした」と驚く松重。炭火でカリッと焼き上げた関西風のうな重を堪能した。


今回はうなぎ編…ではなく、「遠州織物」の職人を訪ねる。浜松は、スズキやヤマハ、カワイなど名だたる自動車/バイクのメーカーや楽器メーカーが本社をおく「ものづくりの街」として有名だが、実はそのルーツが織物にあるという。
遠州織物にこだわるアパレル「HUIS」

浜松市中央区の田園風景の中にポツリと佇む真っ白な建物が見えてきた。遠州織物を使ったアパレルブランド「HUIS(ハウス)」のショールームだ。ハウスは店舗を構えず主にオンラインで販売をしていて、ここは取材や打ち合わせのための空間だという。

早速生地を触ってみて、「生地感と風合いがいい!」と松重。ハウスが使用する遠州織物は天然素材でできているのが特徴の1つだが、昔ながらの織機である「シャトル織機」で織ることで生地に立体感を生む独特なシワ感が出るのだという。

日本人の知らない、世界的に有名な生地「遠州織物」
「遠州」と呼ばれる静岡県の西部地域は、江戸時代から生地の原料となる綿花の栽培が盛んで、機屋の数も多かった。後にトヨタグループを創設する豊田佐吉氏は遠州の湖西市にある農村出身で、日本で初めての動力織機を発明、これを機に遠州地域では紡績・繊維産業が大きく発展した。


この織機の技術を応用する形で、自動車産業などが浜松を代表する産業にまで発達したのだが、浜松生まれ・浜松育ちの松下さんも遠州織物の存在を知らなかったという。一方で、アパレル業界では遠州は「高級シャツ生地の産地」として昔から認知されていて、メゾンブランドもこぞって生地を欲しがるほど。松下さん曰く「洋服として売る時に生地がどこで作られているかは語られない、むしろブランドの色を出すために隠される」ため、私たちがその存在を知る機会は少ないのだという。
シャツマニアな松重豊
松重も遠州織物のシャツを着てみることに。こちらは、タイプライタークロスという独特の質感を持つ生地で作られた「ばちばちタイプライタークロスシャツ」。ばちばちとは機屋言葉で「密度を入れる」ことを表すそう。この生地は髪の毛よりも細い綿糸がこれ以上ないほどぎゅうぎゅうに織り込まれているため、滑らかな手触りながらとても丈夫で、使い込むほどに風合いが増していくという!

これには松重も「エイジングが進むわけですか!」と興味津々。松重のシャツマニアな珍エピソードも飛び出し、スタッフ一同驚く場面も…!?

シャツを着て浜名湖散策も
この生地が織られている工場を見学に…と、その前に浜名湖沿いで少し寄り道。
「浜名湖で養鰻業や繊維業が盛んになった理由は気候の特徴にある」と説明を始める松下さん、生まれ育った場所だとしても、あまりにも土地に詳しいため「松下さんは一体何者なんですか?」と松重。HUISを立ち上げた理由と、それ以前の意外な経歴が明らかになる。

遠州織物ができるまで
掛川市にある「カネタ織物」を訪ねた2人は、実際に織機が稼働している工場内を4代目の太田充俊さんに案内してもらうことに。遠州地域一帯にはかつて3000軒以上あった機屋も、現在は数十軒程度にまで減ってしまったという。

織る前から職人技が
生地作りの最初の工程は、経(たて)糸を織機のパーツの穴に通す「経通し(へとおし)」。ビームという筒に巻きつけられた糸を1本ずつ手作業で通していくのだが、糸の数は通常数千本、ものによっては1万本を超えることも。1本でも通し忘れがあったり違う穴に通してしまうと生地全体がダメになるため、集中力と正確性が問われる作業だ。
これには松重も「とてつもない作業!」と驚愕。

シャトル織機だから生まれる風合い
シャトル織機は、経糸の間をシャトルと呼ばれる部品が往復することで緯(よこ)糸を通し生地にしていくという仕組みだ。現代の大量生産が可能な自動織機が1分間に1000往復する中、シャトル織機はわずか80往復。時代の変化に伴いシャトル織機はすでに部品も含め製造が終了しているが、ゆっくり織り上げるからこそ表面に凹凸が生まれ、独特な風合いが生まれるのだという。
カネタ織物では22台あるシャトル織機を、職人が毎日メンテナンスしながら使用しているそうだ。

手間をかけた先にある価値
最新の機械では1日に数百メートルという生地が織り上げられる一方、シャトル織機は1週間かかってやっと50mの生地が完成する。そしてHUISのシャツを1着作るのに使う生地は約2.2m。1週間かけても作れるシャツは20枚分ほどということだ。
出来上がった生地に触れた松重は、「あえてそれで織るというものの価値と意味と風合いを感じないともったいない」と一言。

カネタ織物の生地は世界で高い評価を受け、なんと1年半待ちなんだとか。しかし依頼があっても「実は、今にも継続できなくなるかもしれない危機的な状況にある」と太田さん。遠州織物を取り巻く現状とは?そしてその世界をじっくり覗いた後で松重が感じたこととは?旅の最後までお見逃しなく。
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