SFで思い描いた未来は案外近い?”空飛ぶクルマ”の現在地

ディレクターズコラム


SFで思い描いた未来は案外近い?“空飛ぶクルマ”の現在地

2025年に大阪・関西万博を控え、次世代モビリティ業界の動向がにわかに慌ただしい。官民が一丸となって空の移動革命を起こそうとしている現状を調べてみたら、ワクワクするような未来図が待ち受けていた。


ウメダナツキ

岐阜生まれの映画好きディレクター。企画、撮影、編集、配信までワンストップで制作。
初めて劇場で見た映画は「ゴースト/ニューヨークの幻」。少年の私は字幕も読めないのに感涙した。


現実味を帯びる“空飛ぶクルマ”の時代

“空飛ぶクルマ”ー SF映画や未来を描いたアニメでは目にしたことがあるが、それはあくまでも空想に過ぎない。しかし、その光景が現実のものとなる日はそう遠くないのかもしれない。

中国・EHang社の自律型無人航空機「Ehang 216-S」は、日本では“空飛ぶクルマ”と呼ばれ、様々な業界から 熱い視線が向けられている。見た目からは“電動ヘリコプター”や“大型のドローン”とネーミングした方がしっくりくる気もするが、空飛ぶクルマと呼ばれるのにはちゃんと理由がある。

垂直に離発着するという点では、ヘリコプターも空飛ぶクルマと同じだが自動車ほど普及はしていない。しかし、空飛ぶクルマはヘリコプターと違い、電動化によって圧倒的な静音性をもたらした。上空を飛んでいる時も、離着陸する時でも「音が気にならなかった」という報告がされている。都市の上空150mを通過する際の騒音レベルは65dBとされていて、これは自動車が通過する際の騒音と同じか少し小さい程度。つまり、街の音に紛れてしまうレベルなのだ。

ハンドルが見当たらない…どうやって操縦する?

「EHang 216-S」は、中国民用航空局から型式証明書を取得し、すでに2024年の商用運航に向けて動き出している。展示会で実物を見ることができたので、その機体に乗ってみてまず驚いたのが、ハンドルやレバーなど、操縦する類のものが何もないことだ。

タブレットが設置された座席

ではどうやって目的地を目指すのか。EHangと販売パートナー契約を結ぶ日本企業、AirX社の藤園氏に話を聞くと、「この機体はパイロットが乗り込まないタイプ。搭乗されたお客様はモニターに表示された目的地をタップしてフライトを楽しむようになっている」とのこと。監視オペレーターは、上空を行き交う機体を1人で複数台を見守るようになっており、完全自動運転のため基本的には介入する必要がないとのこと。まるでSF映画のような世界だ。

藤園さんは、子供が大きく育ったときに夢のあるインパクトの強い産業を見せたいという。

コンピューターに制御された完全な自動運転。2人乗りの機体は穏やかに垂直上昇し、モニターに映し出された目的地に沿って空中を移動する。乗客は、ヘリコプターのような爆音に悩まされることなく会話を楽しみ、絶景を楽しむ。おそらく最初は観光地の遊覧辺りからサービスが開始されるだろう。パイロットのいない2人だけの特別な空間は、プロポーズにもってこいのシチュエーションになるかもしれない。

官民協働で挑む空の移動革命

官民協議会が作成した「空の移動革命に向けたロードマップ」によれば、2025年の大阪・関西万博で空飛ぶクルマがお披露目されるのを皮切りに商用運航が始まり、2030年代以降には都市圏交通へと拡大することが計画されている。

価格帯はまだ明らかになっていないが、馬から自動車へモビリティの大転換が起きた歴史と同様、「最初は富裕層など限られた人にしか乗れないものになる」と言われている。
しかし、業界が見据えるのは、空飛ぶクルマが車と同じくらい手軽な交通機関として街中を飛び回る未来だ。なんと2050年には9兆ドルのビジネスに拡大し、全世界の自動車産業を上回るという試算まである。

まずはモノの輸送で静音性と安全性が示されれば、きっと大勢の人がそれに乗りたいと願うだろう。そして、人々の要求と共に大量生産が可能になれば機体の価格はどんどん下がる。それにパイロットがいらないのであれば人件費も抑えられる。空飛ぶクルマの部品はヘリコプターと比べて圧倒的に少ないため、製造コストとメンテナンスコストも大幅に抑えることができる。そのため、空飛ぶクルマはヘリコプターとは違い爆発的に普及する可能性を秘めている。

経済産業省を始め、エアモビリティ業界が目指している未来の大目標は“空飛ぶタクシー”だ。地上を走るタクシーと同じような料金で乗れることを想定して官民一斉にチャレンジが始まっている。

大阪・関西万博で飛行性能を披露する機種は、米Joby Aviationの「eVTOL Joby S-4」、独Volocopterの「VoloCity」、英Vertical Aerospaceの「VX4」、そして日本のSkyDrive「SD-05」の4機種だ。
もしかしたら筆者のような地上のタクシーさえ滅多に乗らない人たちも、“空飛ぶタクシー”に乗る日が来るかもしれない。
それにはまず、“空飛ぶクルマ”と呼ぶにふさわしい飛行を大阪・関西万博で期待したい。