大人の工場見学:桐箱を作るのは3年がかり?

ディレクターズコラム


大人の工場見学:桐箱を作るのは3年がかり?

日本各地のものづくり工場に潜入し、バックヤードをリポートする「大人の工場見学」。今回は、福岡県古賀市に工場を置く「増田桐箱店」の桐箱作り。そうめん・酒などのギフト用の箱から、一風変わった「米びつ」まで様々な商品が作られる様子をご紹介します。


田尾 彩美

映像ディレクターとして地方を取材。関心の深いテーマ:職人・工場・環境問題・動物。26歳の時に運命の猫と出会い、犬派から猫派に転身した。


福岡で創業94年「増田桐箱店」

福岡県では博多人形や博多織といった伝統工芸品が有名だが、そういった価値の高いものを大切に保管するために必要とされたのが『桐箱』だ。増田桐箱店は1929年に創業し、桐箱を専門に製造し続けている。
国立博物館に収蔵するような貴重な文化財を入れる箱から、お酒やそうめんなど食品を入れるギフト用の小さな箱まで、現在は様々な用途・サイズのものを手がけている。

特殊な製造ライン

工場というと1つのラインで同じものを一定の期間作り続けるケースが多いが、増田桐箱店の製造ラインはちょっと変わっている。
ひとりひとりのスタッフが担当する作業は同じだが、扱う商品が目まぐるしく変わっていくのだ。手のひらサイズの小さな箱を組み立てていたかと思うと、数分後にはお酒の瓶を入れるような縦長の大きな箱を組み立てている。種類が変わっても作業スピードは落ちることなく、数秒〜数十秒で板が立派な箱の形になっていく。

この工場では、30人ほどのスタッフで1日に100種類・計5,000箱を製造しているが、驚くことにそのほとんどが手作業。スタッフそれぞれが多種多様な規格に対応できる高い技術を身につけているため、手作業にも関わらず、こんなにもたくさんの種類と数を作ることができるのだという。

桐箱の組み立てには釘などは一切使わず、糊で貼り付けていく。
糊が乾くまで輪ゴムをかけて圧力を加える。これによってしっかりと固定される。
組み立て終わった箱は、用途に合わせて溝を掘るなど加工を施し仕上げていく。

桐箱ができるまでに3年もかかる

実はこうした工程の前にも大切な作業がある。

桐は切り倒してからすぐ木材にできるわけではなく、製材所で数年間『雨晒し』にされる。理由は、タンニン(=アク)が多く含まれているため。切ってすぐに加工すると、時間の経過と共に成分が表面に出てきて黒ずんできてしまう。
「機械で手早くできないのか?」と思うだろうが、機械の力を借りようとすると、木材のいい部分である油分まで抜けてしまうのだという。美しく丈夫な木材にするには、この方法で自然の力を借りてじっくりとアク抜きをする必要があるのだ。そしてこの作業には、なんと平均して3年ほどの期間を要する。

数年雨晒しにした木は表面にタンニンが染み出し、色が黒っぽく変化している。

桐が“すごい”理由

ところで…「桐が収納にいい」ということは、日本に暮らしていればほとんどの人が漠然と認識している。しかし、その理由を具体的にご存知だろうか?

何かを長い期間押し入れやクローゼットに収納しておきたいとき、気になることといえば「虫」と日本特有の「湿気」だ。この2つと戦うために、桐は特に優れた性質を持っている。

まず先述の通り、桐には「タンニン」という成分が多く含まれているが、この成分を虫が嫌うことから「防虫効果」を生み出している。
そして、木材は切られた後も周囲の湿気を吸ったり吐いたりしている。ジメジメした時期に、古い家屋では木の扉が開け閉めしにくくなったり、引き出しがいつもより固くなったりするのはそのせいだが、桐は木材の中でも特に吸湿性が高い。そのため、周囲に湿気が多ければ、木がそれを吸って膨らみ、中に湿気が入り込むのを防いでくれるという訳だ。

この他にも、木材の中でも世界で2番目に軽かったり(1位はバルサという木材)、熱にも強く割れにくかったり、吸湿放湿を繰り返しても変形しにくかったり….と挙げればキリがないほど、桐は多くの強みを持っている。数百年前から現在に至るまで重宝されてきたのが納得できる、すごい木なのだ。

新しい形の桐箱は「米びつ」と「フードコンテナ」

そんな優秀な木材を使って大切に作られる桐箱。しかし用途が限られ、なかなか多くの人の手には渡らなかった。
そんな課題を解決できないかと新商品開発に乗り出した増田桐箱店は、桐の防虫・調湿効果が食べ物の保存にも適していることに着目。第1弾として作り出したのが、「桐の米びつ」だ。

画像は3kg用サイズ。付属の枡にも面白い工夫が…. !? 

2022年にクラウドファンディングに挑戦すると、たちまち700万円以上を売上げ、会社を代表する商品に。スタイリッシュな見た目もさることながら、使いやすい工夫満載の作りで人気を集めている。(詳細はクラウドファンディングページに掲載)

そして今年、「もっといろいろなものを入れたい」という顧客の声に応え、さらに小さな「フードコンテナ」も発売された。中に缶を入れることで、プロテインなどの粉物、ナッツ・お菓子などの油分を含むもの、コーヒーなど匂い移りが気になるものにも使える仕様に改良した。どんなインテリアにも馴染む2色展開で、テーブルの上においたままでも生活感が出ないのが嬉しい商品だ。

私も試しに…と、湿度の高い8月のある日にクッキーを入れて1週間様子をみてみたが、最初の3日はほとんど食感が変わらず、1週間後にもやや柔らかくなったかなーと感じる程度だった。

気になる方はぜひ、桐のパワーを生活で体感してみてはいかがだろうか?

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