熱狂と酔狂 ディレクターズコラム
棒と光が降り注ぐ 森を切り開く新競技「棍棒飛ばし」
最近、何かどついてますか?殴打が足りない貴方には雄叫びと雌叫びが里山を覆い尽くすスポーツ「棍棒飛ばし」が最適!とはいえ出来たばかりのスポーツなのでまずは競技についてご紹介致しましょう…
CONTENTS
棍棒で棍棒を殴って飛ばし、棍棒で撃墜
競技の根幹は至ってシンプル。台に置いた小型の棍棒(被打棒)を頑丈な棍棒で思いっきり殴打し、飛ばします。その飛距離に応じて得点が得られるのですが、敵チームはその棒を棍棒で迎撃して飛距離を短くしたり、コート外に弾き打ち出して無得点にしたり、減点を狙って来ます。でかい棍棒ほど正しく振れば威力があるのは間違いないけれど、棍棒に肉体が付いてこないと”振るわない”飛距離にもなりかねません。そんな棍棒競技を作ったのが「全日本棍棒協会」のメンバーたち。里山のメンテナンス中に、戯れに作り始めたはずの棍棒は、なぜ宙を舞うようになったのでしょうか?
どつきたいからに決まってんだろピエェェェイ!
棍棒は殴るもの。試しに作った棍棒を携えその辺のものをどつきながら山を登って行った全日本棍棒協会会長の東樫さんたち。木とか岩をどつくと反動で手がジンジンするくらい痛いけど、枝を殴って飛ばしたら、結構飛んで楽しい!そこから飛距離を争い、棍棒で迎撃して邪魔をする、棍棒競技の原型となる遊びが始まった。当初は防具もなしに棍棒を打ち返したりキャッチしたりして多少(?)の負傷を伴っていたが、さすがに危なすぎるのでアイスホッケーの防具を導入。ディフェンス万全で棍棒を迎撃する様になったそうだ。それなら安全だね!
推しの棒
無策の植樹で荒らす山野
知りたい木材流通ミステリアス
抜けてる山肌土砂災害警戒エリア
里山急に高齢化
国策で一気にどっさり植えられ、大きくなった頃には輸入材にコスト負けして、まともに流通したことも大手デベロッパーに愛されたこともない針葉樹林が、全国で放置されている現状がある。
棍棒には広葉樹が適しているのだが、単一樹種が密集し生き物の気配の薄い森には、固く粘り強い広葉樹が無いため、棍棒を作ることもできない。地域特性考えて植樹しろよ!と素直に叫びたくなるくらい、どこでもとにかく杉・檜、日陰も日向も、北も南も、平地も斜面も杉・檜!
植林は木材が不足した戦後に行われた。けれど伐採適齢になる前に、国産木材の価値は低価格の輸入材や建築工法の変化により下落した。そもそも無謀な植林な上に、枝打ちなどのメンテナンスがされなくなり、光が差し込まない、針葉樹ばかりの暗い森が里山から生態系を奪ってしまったのだ。こうなると切り倒しても山から木材をおろすコストが木材価格に見合わないので、ますます放置される。東さんはそんな杉・檜の林を間引いてまずは地面に光をあて、そこに眠っていた広葉樹の芽を育てながら、ほぼ同時に生まれた棍棒競技も育て始めた。
あなたの愛棒サインは樹皮
白樫はきめ細かなグレー系、山桜はツルッとしたベースに横方向の虎縞、枇杷はざらついたグレーベースに縦じわ。樹皮の特徴を覚えればだんだんとスター棍棒になる樹木を見分ける力がつく。棍棒競技のチーム参加には継続的に里山の整備に従事することが求められるため、各地のメンバーも山のメンテナンスに深く関わるほどに肉体が育ち、立派な広葉樹に巡り合うチャンスも増える。木を知り、木を切り、日々練習を重ねる棍棒選手が増えることで暗い森は開墾され、差し込む光が多様な樹木を育み、里山はもう一度、人と関わりながらの循環を取り戻していく。推しの木にスポットを当てることができるのが棍棒競技なのだ。
棍棒を飛ばすなんて危ない!という声もあるが、普段からチェーンソーを扱い、とんでもない質量の木を伐採している選手たちは”安全”に対しては、人一倍気を遣ってルールを整備している。
叩け棍棒 響けサンバ
棍棒は里山になんかヤバい奴らがいるぞ!と注目を集めるきっかけになった。危ない、激しい、けれど楽しい。木漏れ日と木々の囁き…みたいなイメージで里山にやって来たらいきなりピエェェェイ!という世界線。でも、誰も彼も浮かれ騒ぎ被打棒を弾き飛ばす叫びの裏で、里山の循環を取り戻すために力の限り山の手入れを行なっている棍棒競技者たち。
楽しい棍棒飛ばしに人を集め、里山の祭りの熱狂を伝播させるのは、彼らの里山再生計画のごく一部に過ぎない。罠と知りながら棍棒に近づくのか?それともこれまで通り清潔でお上品な都市生活に甘んじるか?棍棒と里山がもたらす楽しさと、気付かないうちに進んでいた山の疲弊が見えてきた。あとは棍棒を手に一歩踏み出せば、新たな興奮が君を待っている!