そうびをととのえ、ぶん殴る。棍棒で創る発散と発展

熱狂と酔狂 ディレクターズコラム


そうびをととのえ、 ぶん殴る。棍棒で創る発散と発展

謎の武器商人集団『全日本棍棒協会』、彼らの目的は都市生活者を“誘惑し山に連れ去る”ことだった!棍棒で木をしばかせまくり若者をへろへろに疲れさせる”棍棒飛ばし競技”を通し全国の里山に棍棒と絶叫が鳴り響く!ちょっぴり刺激的な里山遊びの提案です。


酒井 純信

社会の檻の錠前破りにしてひとり働きの動画屋。死んだ魚の目なんて比喩がありますが目をキラキラさせ生きるおっさんも同時代にいる。その生き様を動画で綴りインターネットに流しますので、檻から抜け出す鍵を見つけてください。


おおさかのぶきや

笑顔で躊躇いなく棍棒を振り下ろす男。棍棒が都会の男女に飛ぶように売れているという投稿。
突然SNSを騒がせた棍棒殴打動画の投稿者は全日本棍棒協会、大阪で開催されている大棍棒展という謎のイベントで行われている試し殴りの動画らしい。棍棒売ってるの?なんで作ったの?買ってどうするの?深まる謎を暴くため大阪に向かった。

鳴り響く殴打音

会場に近づくと、コーン!コーン!と何かぶつかり合う音が聞こえてきた。これは、殴打音…?
大阪の北浜、街のど真ん中にあるかっこええホテル。その地下に例の動画が撮影された場所はあった。床にずらりと並んだ棍棒と品定めをする客たち。その名も「大棍棒展」。洒落た場所にあるからか客層もオシャレヤングが多いぜ…。

盛況の大棍棒展

そんなギャラリーのすみっこで、棍棒を作っている男を発見した。この男こそ、動画の投稿主・全日本棍棒協会の東樫(あずま かし)会長だ。会場を案内してもらうと、価格は数千円の小物から数万円の大物、一億円の神様みたいな形のやつまで幅広くあり、樹種で言うと樫や枇杷、桜など硬いものに高価なものが多い。それら棍棒をこうげき力を高めたい男女が買っていく。使い道は一体何なんだ…?他人と被らないファッションアイテムとして買うの?それとも、本当にこうげきするの?捕まらない?

棍棒を作る全日本棍棒協会会長 東樫(あずま かし)さん
飛ぶように売れていく棍棒

しばくために決まってんだろ

これらの棍棒は、全日本棍棒協会が考案した「棍棒飛ばし」という競技のために使われる。

棍棒飛ばしとは…
1.棍棒を飛ばすチーム(攻撃)と飛んできた棍棒を迎え撃つチーム(守備)に分かれる
2.攻撃側は丸太を地面に据え被打棒と呼ばれる小型棍棒を置く
3.棍棒で被打棒をしばいて小型棍棒を飛ばす
4.飛んできた小型棍棒を守備がキャッチ、または棍棒で迎撃する
5.小型棍棒が得点エリアに落ちれば飛ばしたチームの得点になり、遠くに飛ばすほど高得点

ざっと書くとこんな内容で、2チームが攻守交代しながら得点を競う。つまりは野球みたいな感じ?紳士淑女の皆様は危なくない?と思われるかもしれない。しかしそこは防具の着用で…骨折とかはしないように、気をつけてプレーする。かすり傷はノーカウントの世界だ。

相手チームに棍棒をキャッチされると得点にならない。危ない!

危険と隣り合わせだぜ

“牧歌的に見られがちな里山だが実は刺激に満ちている”。
木を倒したり、火を焚いたりする里山の楽しみと同じく、棍棒競技は危険と隣り合わせであり、そこに繋がる林業もまた危険と隣り合わせだ。
棍棒は全日本棍棒協会代表の東さんが林業に携わる傍ら作り始め、手近なものをしばいて遊ぶうちに棍棒飛ばし競技へと発展していったもの。林業はどでかい木にチェーンソーで立ち向かい、切る・倒す・運ぶ、全ての作業に命の危険が伴う仕事。危険に注意を払うことが当たり前の林業から生まれた棍棒飛ばしは”里山のスリルの疑似体験”。だから危ないのは当たり前、参加したい人は自ら防具を揃え、気をつけて楽しむ。そして競技を通して本当のスリルが待つ里山に一歩踏み出してもらうのが目的なのだ。

最高価格の棍棒、1億円
多様な樹種はメンバーが里山メンテナンスに関わる故のもの

「森が荒れている。」「高齢化で里山のメンテナンスが追いつかない。」よく聞く山のピンチはどうしてもよそごと。そんな中、“ポータブル里山”とも言うべき棍棒の誕生により、都市生活者が棍棒にお金を投じ身近な何かをしばき始めた。
これこそが全日本棍棒協会の真の野望。民衆を里山住人化し、増えた人口により(交流人口でもよい)放置された山がメンテナンスされ、生物多様性を取り戻していくことを目指している。

SNSをきっかけに大棍棒展に押し寄せた若者達は、そんな思いは露知らず棍棒をコンテンツとして消費しただけかもしれない。しかし、里山を覗くとき、里山もまた祭りに飢えた都市生活者を見返しているのだ。

全日本棍棒協会は今日も棍棒をしばき飛ばしている。みんなも棍棒、飛ばそうぜ。次回は本格的な棍棒飛ばし大会に潜入し、白熱した試合の模様と波乱の結末をお届けするのでお楽しみに。