調理のコツはセミヌード…?無視できない昆虫食の世界

熱狂と酔狂 ディレクターズコラム


調理のコツはセミヌード…?無視できない昆虫食の世界

コワイ!キライ!世に渦巻く虫に対する嫌悪感。しかし昆虫食ビギナーの皆様にも野食ハンター・茸本朗が「うまいゾ!」とおすすめする食材がセミである。えっ?昆虫は食材じゃない?そんな君の心の扉を朗がそっと開けにゆくよ…アメリカザリガニと外来セミ・タケオオツクツクが奏でるスパイシーな大人のラブストーリー!(2018年取材)


酒井 純信

社会の檻の錠前破りにしてひとり働きの動画屋。死んだ魚の目なんて比喩がありますが、目をキラキラさせ生きるおっさんも同時代にいる。その生き様を動画で綴りインターネットに流しますので、檻から抜け出す鍵を見つけてください。


セミは飲み物

食べたくない!と言われる昆虫食だが、そもそも食用と認知されて来なかった事が大きい。
同じような見た目でも、海でとれるエビ・カニは昔から食卓に上がっていたゆえに食材枠として扱われてきた。昆虫だって味も栄養も申し分ないはずだけれど、日常生活で人を困らせる種類(音もなく現れて驚かせてくる“G”や追いかけたり刺したりしてくる蜂など)もいるもんだから、見た目のせいで昆虫全般を本能が拒否する。だから昆虫を食べる文化は、日本だと長野県北部などタンパク質が調達しにくい地域で限定的に紡がれてきた。
今回、初心者向けの食材として昆虫食のプロ(?)である茸本朗がおすすめするのは、ユーラシア大陸から輸入箒に乗ってやってきた(卵がくっついてきちゃった)巨大セミ・タケオオツクツクだ。

ひどい言われようだ

セミもエビもタイ語で「クン」だから(?)トムヤムクンにする

昆虫食ビギナーに朗が提案する食べ方がトムヤムクン。セミもエビもタイ語で「クン」(らしい)で「味も似てるんだぜ!」とハンターが言い張るので、多分そうなのだろう。戸惑いつつも信じることにして調理に挑んだ。

最初から見せ場しかない調理の様子

殻が邪魔!無理せず美味しく食べるなら“セミヌード”

昆虫食の障壁は、見た目。美味しく食べるなら殻を剥くべきだ。SNS映えを狙い本体を料理に乗せたりして見た目のインパクトでばかり勝負すると、白い鯛焼き・タピオカ・唐揚げ専門店のように一過性の流行で終わってしまうだろう。昆虫は成虫なら殻、幼虫なら皮が舌触りを悪くし味わいの邪魔になる。殻は剥き、幼虫は裏漉しすると食味の評価に集中できるのでおすすめだ。でも俺達は映えたいから…乗せる!

発音器を鳴らすための筋肉を食べるぜ

ほとんどの虫の場合、成虫は能力の獲得と引き換えにおいしさを失う事が多い。飛べる・でかい音を出す・かたい鎧をまとうなど、能力を得ると中身がスカスカの硬い殻となる。口の中を怪我する割に中身は空、それはもはや食材じゃない。一方、セミは成虫になっても発音器を鳴らすための筋肉が大ぶりで中身が詰まっている。なかなか食材として有望なのだ。何事も目利きが出来れば選択肢は増やせる。

左:セミの幼虫、右:成虫の剥き身

ビとセミがクンで始まったんだが…

加えて、朗がエビに代わる食材として選んだのはザリガニちゃん。大きな川のはしっこの湿地に潜むザリガニをたっぷりハントしてきたけれど、でかいザリガニもむくと身は小さい!しかし、朗のワタ抜きノウハウを習得すればどんどん剥けるので量で勝負する事にした。なお手はザリガニ臭くなる模様。セミのスープというハードルを越えられる皆様にとって、今更ザリガニなんてコオロギくらいポピュラーな食材のはず。安心してトライしてほしい。あと、後日調べてみたらタイ語でセミはクンじゃなかった。朗ぁ!←自分も調べずに撮影しているね。

たくさん採れたね!
剥いたらちっちぇえ!

セミとザリガニのトムヤムクン、お味は…?

川口のカルディで買ったトムヤムペーストにザリガニ、剥きセミとライムリーフを入れて煮込み、ナンプラーで味を整えて完成。早速頂いてみよう。まず、セミの成虫肉のお味は…繊維質で少し青っぽいニュアンス。昆虫の味はその昆虫が食べたものの味に近づく傾向にあるそうなので、樹液由来かな?歯応えは貝柱みたいなジャキジャキ感があり、肉らしい食感が楽しめる。
「幼虫の方はトロッとクリーミーでうまい!」と朗は言うが、丸のままだとでかい虫じゃん…と食べられない取材班。しかし野食ハンターがすかさず頭と胴をちぎってくれて、急に大丈夫になり食べる事ができた。ありがとう朗!ちぎれば食材だ!しかし昆虫食のハードルの高さを実感したぜ。

剥き身はスープに入れるとツナみたいに見える
朗の食リポはというと…

ザリガニはエビ味だね!…とはならなかったが、少しカニみたいな旨味がしつつやや柔らかな歯応えで、ザリガニの個性が感じられた。お前、名前に「カニ」が入っているだけはあるな。タケオオツクツクとザリガニが奏でる夏休みのハーモニー、たっぷりエンジョイできた。

ザリガニは茹でるとまるでエビのような見た目に

しかもアメリカザリガニは侵略的外来種筆頭の存在。在来種の虫や小魚を食べて絶滅させたり水草を切りまくったりして、生態系に相当大きな影響を与えている。どしどし食べて水辺の平和を取り戻そう!