熱狂と酔狂 ディレクターズコラム
発見!秘境たけのこ村 産土に還る土器づくりの秘密
九州のとある山奥でひっそり暮らす謎の土器制作集団、たけのこ村。令和に土器を引っ提げたびたび都市を“襲撃”する彼ら。その作品は高値で取引されるという。謎のベールに包まれた村の実態に迫るべく、現地へと向かった。
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葉っぱのお金はお持ちかな?
村に入ると、上裸にサングラスの村長のもとに案内される。「東京で高価に取引される土器作りを見せてください!金ならいくらでも払います!」とお願いするも、村長は首を横に振り曰く、「そんなもんはここでは紙切れや。土器は村民の技やけん土掘りば手伝うたら教えちゃる。」かくして私は上裸でサングラスをかけ、土掘りなどを手伝いつつ撮影をする事になった。ファインダーが見えん。
村長はなるべくお金を使わず生きており、土器の土は野山で集め、薪は河原で拾ったり工場の廃材を燃やしたりして焼き物を作っている。愛車のミニクーパーのガソリン代だけが現金払いだ。
水が漏れる器
たけのこ村は福岡県うきは市の山奥にある。現地でもその存在を知る人は少ない。ここで作られている土器の多くは、水が漏れたりヒビや欠けが有る。山を越えれば小鹿田焼や小石原焼の産地があっていい粘土が調達できるけれど、車で40分、徒歩なら5時間。「縄文人がそんな距離を重たい粘土を背負って歩いたはずがなかばい」と、村長はあくまでうきはの粘土にこだわる。掘った土を触らせてもらうと、ねっとりともっさりが同居した感じで、あんまり粘土らしくない。そんな粘土のため水が漏れてしまうのだ。でもその土で成形し乾かして、焼いてみる。取材時は薪火で11日間焼き続け、完成した器を取り出してみると、なんとも土らしい。焼き固められた肌は村長と登った山が写しとられたように、岩肌の面影を纏っていた。
村長が土器を焼く理由
掘って、練って、焼いても、未完
土器は村長の技と共に育ち、大きくなっていった。初めは手の中から、次に紐で縛って割れを防ぎながら大きく高く、その次は土間に大穴を掘って内側に粘土の壁を作る事で、大きな壺を脆い土で完成させた。村にはそうして作ってきたおびただしい量の土器が並んでいるが、形は整えられ焼かれているのに村長は未完だと言う。目的は焼き物作りではないのだ。
村長の本当の目的は、土器を作ることでも売ることでもない。
山の土のうつわに、山の木々の若木を生ける。そこに立ち上がる景色を小さな山に見立てて都会に送り込み、社会を混乱せしめ、見慣れた窓辺の秩序を土くれと苗木で撹乱する。そうやって山へ想いを馳せるよう仕向けるため、村長が土と火を操り、作り出した装置が「土器」なのだ。
土器は焼き物界の新潮流?
「土器」というと、「はるか昔の産物で博物館に展示されているもの」と思われがちだが、実は焼き物界で今1つのムーブメントとなりつつある。焼き方、燃料、原土、さまざまな表現がやり尽くされ、さらに3Dプリンターを使った焼き物も出現。そんな中、日本では原点回帰して土器を専門的に焼く作家や、有名陶芸家が野焼きで作品作りをする動きも出てきた。土器は、久しくドキドキが失われていたうつわの新潮流になり得るのか?古代に思いを馳せ、土と真っ向勝負するたけのこ村の今後から目が離せない。
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