
熱狂と酔狂 ディレクターズコラム
ブナの老木には鶏肉が生える?ハレの日のご馳走トンビマイタケ
秋田・山形の山里で珍重されるという幻のキノコ、トンビマイタケ。旬が短く痛みやすいので流通には乗らないけれど味がいいので地元でも確保が大変だというキノコを名人と共に山に入り、探しに行ってみた。
CONTENTS
日の出と共にハントに行くぜ
松茸・舞茸・ホンシメジ、有名きのこばかりがちやほやされる昨今だけれど、市場流通に乗らない食材の魅力は味覚と胃袋だけじゃなくて冒険心を満たしオンリーワンな個性も楽しめる。日本各地に眠っている「またあれが食べたいなぁ」と季節ごとにみんながそわそわするようなローカルの食材を求め今回は秋田・山形で珍重されるキノコ、トンビマイタケを探しに山形の某所に向かった。キノコは秋のイメージがあったけど、季節は夏!8月から9月の上旬までの短い期間に古く弱ってきた広葉樹の幹に発生する地域のご馳走で、出る時はどっさり出るので見た目のインパクトも凄いらしい。今回はキノコ採りの名人、三宅さんに案内をお願いした。

自然の恵みは奪い合いだぜ
山里では天然マイタケなど高級キノコのポイントは家族にも教えないと言う。自分で食べるのはもちろん、うまくいけば数万円の収入になる高級キノコは財産の隠し場所と同じなので絶対秘密。我々軟弱な東京もんでは2度と辿り着けないような山の奥なので同行させてもらえた。今回探す場所は昔使っていた道の奥の、道が無くなった更に先にある秘密のスポット。森林浴の向こう側、森に溺れるような道のない斜面を登って向かう。普通の登山靴じゃ付いていくのも大変な(登山靴は整備されてない斜面に弱いのでスパイク足袋が必須)とんでもない山の中で、蜂に襲われ、熊に怯えながらずんずんと進んでいく。どんなに大変な思いをしても、見つからない時は全く見つからないし、もっと悔しいのは見つけたけどもう固くなっていて食べられない状態の時や、まだ小さいから明日もう一度…→誰かに先を越された!山を登りなおしたのに!など、地団駄を踏むような思いをする事もある。「だからこそ見つけたときは飛び上がるほど嬉しいんだよ」と三宅さんは語る。


見つからないぜ
「こういう木に出るんだよ!今日は出てないけど!」「今年はみんな採れてなくてさ~」と、この年の山の景気の悪さについて話を聞きつつ大木を巡ること数時間「今日は空戻り(収穫なし)かなぁ~」と呟く三宅さんと共にどんどん奥へ進んで行くと一際でかい大木があり、三宅さんがのしのしと確認しに向かう。疲れちゃったし下り坂で距離があるのでついつい遠くから撮っていると…「あったぞ!」と三宅さん。駆け寄ってみるとかなり大型の個体が木を半周するくらい出ている。10キロ超えのキノコなんて想像もつかなかったけどこれは納得のデカさだ。1キロ3000円、この日の個体は20キロなので60000円ほど。これは夢を追う甲斐がある。

キノコは結構稼げるぜ
実はトンビマイタケ、秋田・山形以外でも探せば見つかるけれど、食べ方が知られていないようで他地域ではあんまり食用されてないかも、とのこと。トンビマイタケはちょっと触るだけで黒く変色するのと、収穫後に硬くなるのが早いので流通に乗らないのも納得だ。達人はキノコが傷まないよう笹と風呂敷でふわふわに包んでから背負子に入れて山を降りる。登りより20キロ増えた荷物をものともしない軽い足取りでびゅんびゅん進み、固くなる前に全部売る。待ってる人が沢山いるからすぐ売れるとの事なので、よその地域には出回る余剰分はないのだ。

美味いぜ
名人曰くマイタケは食べ始めが幸福度マックスでだんだん飽きがきちゃうけれど、トンビマイタケは味と香りのバランスがよく口飽きないとのこと。どんな味?と聞くとフライドチキン!と言われ頭の上に「???」とハテナを沢山浮かべてしまった。食べないとわからんので調理する奥さんの周りをうろうろしながら調理を拝見していると、しょうゆと味醂で煮しめたものと、天ぷらが完成した。食べてみると肉厚で歯応えのある繊維が確かに鳥肉に近くて、マイタケはよく出汁が出るキノコだけれどトンビマイタケもかなりボディのある旨味が出る。慣れ親しんだキノコの出汁というよりは動物系に近い感じ。フライドチキンの衣に滲み出た旨味の味がする。動物性の旨みが入ってないとは思えないこのトンビマイタケ、旬の季節になれば山形では芋煮に、秋田ではきりたんぽ鍋に使われるそうで、押しも押されぬ王道メニューの役者でもあるのだ。お盆前後に山里に行けば、出会うチャンスもあるかも?旬の時期に現地に行ってこそ味わえる幻のキノコ、ぜひ味わってみてほしい。
