松重見聞録
【松重豊インタビュー】自身初のネット配信番組に挑戦、伝統技術&食の旅へ
今年2月に配信がスタートした「松重見聞録」。俳優・松重豊が全国津々浦々を巡って、ものづくりの職人たちと出会いその技を体感する。ずっと胸に抱いているという「職人への強い憧れ」の理由とはー?
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松重豊・初のネット配信番組
松重豊が日本のものづくりをテーマに、商品の魅力や作り手の想いに迫る旅の記録「松重見聞録」の配信が、2023年2月、TIMELINEでスタートした。番組では、クラウドファンディング(インターネットを介して不特定多数の人から資金を調達する仕組み)を通じて新たな挑戦を始めようとする職人を松重が訪ね、手仕事を取材、時には体験する。
テレビドラマや映画、ラジオなど多くのメディアへの出演や執筆活動で多忙な日々を送る松重が、その合間を縫ってまで、地方のものづくりの現場を訪れたいと思ったきっかけとは?番組への思いを聞いた。
「もの」へのこだわり
ーこうした枠組みの番組への出演は初めてだと伺いました。
松重:インターネット上でやるコンテンツっていうもの自体がほぼ未経験でしたし、 クラウドファンディングっていう言葉も意味は知っていましたが、どういうものか実態がよくわからなかったんです。でも、いいものを作るために資金を集める方法として非常に注目されているし、 日本の様々な産業に光を当てたいっていう企画に心が動きました。だから、仕事としてやりたいっていうよりも、興味としてやりたいっていう気持ちが大きかったですね。
ー番組のテーマは「ものづくり」ですが、普段ご自身が使う「もの」にもこだわりがあるそうですね?
松重:僕くらいの年齢になってくると、 身につけるものとか使う道具は愛着のあるものを大事に持ちたいっていう思いが出てくるんです。ただ長く使っているものが古くなって、買い換えようとした時に「以前はこれ作ってたのに、なんでやめちゃったんだろう?」みたいなことがあるじゃないですか。普段着ていたTシャツが廃盤になった時には諦めきれずに、作り手(久米繊維工業)に「昔のデザインで作ってもらえませんか?」と直接手紙を書いてお願いしたこともありました。
松重:一方で、後継者不足とかコロナ禍の影響で「もう店を畳むしかない」みたいな状況も耳にすることがあるので、もったいないなと感じていて…。日本が誇るべきは、技術力というか『職人力』だと僕は思ってるんですよ。
僕は俳優をやりながら工事現場で働いていた時期がありました。工事現場っていうのは、溶接工がいたり、鉄筋工がいたり、 型枠職人がいたり、足場職人がいたり。各専門家が1つの現場に集まって、ビルを建てたりするんですよね。その職人技のオンパレードを間近で見られたことが本当に面白かったので、そういう機械や技術っていうものへの憧れは、今でもとても強いんです。
職人と俳優のちがい
ー職人への憧れは、さまざまな役を演じてきた「俳優」としての経歴も関係しているのかと思っていましたが…
松重:職人の技っていうのは、ちゃんとその技術に裏付けがあると思うんですよね。逆に、俳優ってのは技術的なものを細部にわたって要求される職業ではなく、「なんとなく」でできちゃうところがあって。 2〜3歳の子供だって、本当に人を感動させるような表現ができると思うんですよね。逆に、演技っていうものに向き合って、40年、50年とやっていても全くできない表現だってある。技術として還元されるようなものじゃないと僕は思うんですよ。だからこそ、経験の積み重ねによって確かなものになっていく職人技への憧れがすごくあるってことですかね。
ものづくりの現場は「人」が面白い
ーそんな憧れの職人たちを訪ねる訳ですが、どんな気持ちで取材をされているのでしょうか?
松重:単純にもう、興味ですよね。とにかく「人」が面白いと思うんですよ。1つものを極めた人の、その人となりが面白い。そして、実際にやってる作業が面白いし、作業場が面白い。作っている人とその作業場と作品っていうのは、1つの物語の中で繋がってるものだと思うんです。番組を見ている人には、そのストーリーに注目してほしいですね。
ーこれからどんな職人・現場を訪ねていきたいですか?
松重:「あ、ここに目をつけるんだ」っていうようなものづくりの現場を見つけていきたいですね。爪切りだとか耳かきだとか日常的に使う道具って、漫然と昔からあるものを使っちゃっていますけど、ちゃんと見れば「こんなすごいものがあったのか!」っていう世界がまだまだありそうじゃないですか。そういうところがあれば、日本中、海外までも足を伸ばして、 現場を覗きたいですね。
もちろん、その場所の美味しいものも食べながらね。そこもマストです(笑)