ディレクターズコラム
White Roseのビニール傘が愛される理由 “違い”を生み続けるパイオニア
皇室や政界をはじめ、各界から重宝されるビニール傘がある。その傘をつくるのは創業300年の老舗傘問屋・ホワイトローズ。世界で初めてビニール傘をつくったパイオニアで、今もビニール素材にこだわった多種多様な傘づくりをしている。傘業界で”違い”を生み続ける職人・須藤宰氏について紹介しよう。
CONTENTS
人生に寄り添う傘
「不満こそが、進歩するための鍵である」
1,300もの発明と技術革新をしたアメリカの発明家トーマス・アルバ・エジソンの言葉。ホワイトローズの10代目社長で職人の須藤宰氏の傘づくりからは、そんなエジソンの言葉が脳裏に浮かぶ。ビニール傘のイメージというと、数年も使えばいい方でそこに特別な思い入れも愛情も存在しないというのが一般的だろう。しかし、ホワイトローズのビニール傘は、“人生を変える1本”と言っても過言ではないほど、一度使うとハートを掴まれてしまう魅力がある。その傘をスペシャルなものにする最大の特徴が、「風をいなし、しなやかで折れない」という機能性。誰もが抱く「傘が壊れてしまうかもしれない」という風への恐怖心やストレスから人々を解放させる傘なのだ。傘の各部位の素材も厳選されており、持っているだけで洗練された大人へと変貌させる美しさと気品が感じられる。
須藤宰の傘作り
業界のタブーを乗り越える
ホワイトローズの傘は風が内側から通り抜け、雨水の侵入も防ぐことができる特殊構造となっているのだが、これは「逆支弁」と呼ばれるホワイトローズが開発した特許技術だ。須藤氏いわく「雨や雪から身を守る雨具に穴を開けるというのは、業界から見たらタブー。しかし元々ビニール傘の第1号製造時にその規格を決めたのは自分たちだから、全く抵抗がなかった」という。
素材にもとことんこだわる
ホワイトローズの傘の特長は逆支弁だけではない。
傘地となるビニールには、ポリオレフィン系多層フィルムが使用されており、通常のビニール素材よりも透明度が非常に高く視界を広く確保でき、丈夫で、温度変化による変形もなく70℃〜マイナス20℃まで耐えるという。塩素を含む塩化ビニールとは違い、オレフィン系の素材は焼却の際ダイオキシンが発生しないため環境にもやさしい。エコを意識した須藤氏の取り組みというわけだ。
アイデアで勝負
ホワイトローズには多種多様な傘がある。須藤氏のところには多方面から傘に関する相談が集まり、それが新しい傘を開発するきっかけにもなる。その代表例が上皇后美智子さまの要望に応えて製作した『縁結 -雅-』。「雨天の日に公の場で、傘で顔を覆い隠すことなく姿勢を崩さずに、常に表情を見せておきたい」という美智子さまの想いを聞いた須藤氏は、傘を長時間持ち続けていても手に負担がかからないように、傘骨は超軽量の最高級カーボン樹脂性にし、逆支弁が施された傘をつくった。
他にも、寺社住職の声に耳を傾け開発した差掛傘『テラ・ボゼン』、トレッキングなどを想定したコンパクト傘『カテール・ピッコロ』、杖を傘に仕込んだ『仕込み傘・信のすけ』などがある。
須藤氏は常に寝床にメモを置き、夢の中で新しい傘のアイデアが浮かんだら忘れないうちにメモし、後に方眼紙に起こす。そのアイデアは、無限に湧き出てくるという。
「傘にやって良いことと悪いことは熟知している」のだそう。こうしてホワイトローズの傘の一つ一つは、斬新なアイデアと、シーンを考慮した緻密な計算のもとに生み出されている。
ビニール傘にこだわるワケ
ホワイトローズの傘コレクションにはビニール傘のラインナップしかない。須藤氏は言う.「ビニール素材は完全な防水素材であると同時に、透明だからこそ視界をさえぎらず閉塞感がなく快適。そして究極の安全傘」なのだと。
『人間を守る傘』、これがホワイトローズのコンセプトだ。この点において、筆者はシンパシーを感じた。筆者には目にハンディキャップを背負うフルート奏者の友人がいる。片目が全盲で、もう一方の目もほとんど視力がない。雨天の日、そんな彼の手にはいつもビニール傘が握られている。目は光の情報を集める器官。盲目の人にとって、ポリエステルや綿、絹などの傘生地は、光を通さないため黒い布で視界を遮られているような感覚になるのだそう。だからこそ、透明素材で視界が広く光を感じるビニール傘が必需品というわけだ。透明なビニール素材だから救われている人々もいる。我々もビニール傘をさしているとき、無意識レベルで傘の外の危険を察知したり、開かれた世界と常に接点を持つことで精神的な開放感を得ているのかもしれない。
唯一無二の存在であるために
ビニール傘は工場で機械を使い大量生産されているイメージがあるかもしれないが、ホワイトローズでは傘はすべて職人の手仕事によって作られている。はっきり言って1本の傘をつくるのに多くの手間と時間がかかるが、ものづくりの世界では、評判の良く作りが簡単なものはすぐにコピー商品が製造され出回ってしまう。傘界の唯一無二であり続けるために、須藤氏はあえて複雑で面倒くさいと思われるようなものづくりを貫いているのだそう。
ここまで読んでくれたあなたは、ホワイトローズの傘を手にしたらきっと「大事にしたい」と思うだろう。
『使い捨てされるような消耗品をつくるのではなく、”愛着を持って長く使いたくなる傘”をつくる』というのは須藤氏の願いであり、須藤氏のものづくりの根幹にあるモットーでもある。愛される傘を作るために、常に使う人に寄り添い、絶対に手を抜くことはない。こうして気品にあふれ、人に優しいホワイトローズの傘が生まれているのである。
あとがき
久しぶりに須藤氏に会いに行くとまた新しい傘をつくったそうで、席に座るやいなや早速見せられた。その新作は、日傘を超える日傘。最高水準のUV遮蔽率・遮熱率があるらしい。その新作をテーブルの中心に置くと、感想を求められた。その後何分が経っただろうか。気づいた時には私達はなぜかこの傘の未来について語り合っていた。
『”空から降ってくるものから人間を守る道具”としての傘を、進化させていきたい』
傘を使って世の中をより便利にしようとしている須藤氏の眼差しは、いつも未来を見据えている。ホワイトローズの傘の今後が楽しみでならない。
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